科学技術情報流通技術基準

参照文献の書き方 解説





 参照文献の書き方が「書誌的情報の記述(SIST 02-1980)」の一部として刊行されてから,すでに四半世紀が経過した。その間,2回の改訂(1984年,1997年)と電子文献のための補遺(2003年)が刊行され,現在に至っている。

 科学技術関連のすべての分野で作成される技術文献においては,単一のルールによって参照文献リストを用意できるようにしたい,これがSIST 02の目標である。そこを目指してSIST改訂の作業が続けられ,また毎年その普及のために説明会等が開催されてきた。こうした地道な努力は,科学技術分野だけでなく徐々に世の中に認められつつある。

 しかしながら,参照文献リストを書く側から眺めると,事情は必ずしも簡単ではない。たとえば,人工関節の開発といった,工学分野の著者が参照記述ルールの異なる医学誌に投稿するようなケースも多い。参照する文献も電子雑誌からであったり,学会誌に掲載前で機関リポジトリ所載のものだったりする。4年前には「電子文献を参照文献リストにどう書けばよいか」という声に押されて「電子文献参照の書き方」をSIST 02の補遺としてまとめたが,いま私たちの目の前にある参照すべき文献群は,まさに多種多様になってきているのである。

1. 基本的な事項

 こうした状況のなかで,SIST 02 -1997年版の見直しを始めた。見直しに際して,基本に据えた考え方は以下のとおりである。

(1)ルールを単純化し,ページ数も減らす

 可能な限りルールを単純化する。文献種類や刊行形態の異なりが,ルールを複雑に見せる原因ともなっているので,あまり出現しないものは省くことにした。たとえば,ウェブサイト,ウェブページのひとつとして記述できる「電子新聞」は適用範囲の記載から除き,記述することが極めて少ない書誌要素である「刊行頻度」や「システム要件」などは,この際,削除することとした。また,本文を読みやすくするため,関連規格・基準を本文末尾にまとめて整理した。

(2)参照の役割と要件を念頭に

 参照する文献の選択と決定はすべからく著者側にあって,選択された文献の書き方だけを規定するというのが私たちの従来のスタンスであった。今回は一歩踏み込んで,「1.3 参照文献の役割と要件」の項を新設し,参照文献の果たす役割に言及し,併せて必要な条件を示した。細かなルールを羅列してその適用を求めるより,参照の役割や要件を念頭に置いた記述が,合目的的な情報を伝えることになる,と考えるからである。関連して,「3.4 公開されない資料」で私信の記載を一部制限することともなった。

(3)電子媒体と印刷媒体の区分

 電子媒体の雑誌や図書と印刷媒体の雑誌や図書のように,媒体の異なりによる区分章立てはしていない。それぞれの例示はもちろん行うが,電子媒体の文献の参照には,入手方法と入手日付(アクセス日付や参照日付を含む)がプラスされる違いがあるだけだ,という認識による。

(4)参照したそのものを書く

 電子媒体の文献は,内容が改変されてもそれがいつ行われたか把握しがたいし,時間経過とともにアクセスした場所から消失することも起こる。そのことは十分認識しておかねばならないが,同じ文献が電子媒体と印刷媒体の双方にあるとき,どちらを参照文献として記述すべきかという問いかけに対しては,実際に参照したそのものを書くのがよい,と答える。

 以上の基本認識に基づいて,2007年版はSIST 02の1997年版と2003年の補遺の双方を机上におかねばならない不便から脱出した。国際的にもISO 690(参照文献の書き方)の第2版(1987年)とISO 690-2(電子文献参照の書き方)の初版(1997年)の一本化が検討されているという。電子媒体と印刷媒体の参照文献が混然と目の前にある現在,当然の帰結といってよいだろう。



2. 何を変更し,追加したか

 今回の改訂によって変更された主な事項と,適用範囲の拡大について述べる。

(1)書誌要素の再配置

 SIST 02 (1997) 及びSIST 02 suppl. (2003) における参照の記述は,@著者などに関する要素→A標題に関する要素→B出版及び物理的特徴に関する要素→Cその他の要素,の順に書くこととなっている。この流れは変えない。しかし,「B出版及び物理的特徴に関する要素」や「Cその他の要素」に含まれていた「特許文献」と「雑誌へ投稿中の論文」を外して,新たに加えた「規格文書」とともに,それぞれの書誌要素ごとに分けて該当する箇所にはめ込んだ。文献種類をBやCに並列するのは奇妙なことだからである。さらに,「その他の要素」という容れ物を「注記的な書誌要素」という内容限定の名称に変え,そこに入っていたISBN,ISSN,学位請求論文の種類,DOI,シリーズ等は「B出版及び物理的特徴に関する書誌要素」にくくり直した。なお,規格文書は今まで参照の適用範囲に入っていなかったことが不思議であって,追加することに異論はあるまい。

(2)発行年,ページ,雑誌名

 文献リストから参照された原論文にたどり着こうとするとき,その原論文を同定する重要なキーのひとつが発行年である。巻号・ページなど数字列の並ぶ箇所で,発行年を捉えやすくするため,巻号とページの間にあった発行年を,ISOのように雑誌名と巻号の間に移した。また,識別性をよくするため,原則としてページ表記の p. を省略しないこととした。これらは参照文献の利便性を高めるために必要な措置だと考えている。同じ主旨で,和雑誌名は省略なしの完全誌名を書くこととするなど,SIST 05 の改訂された基準に合わせた。

(3)個人著者名の表記

 個人著者名を姓,名の順で書くことに変わりはないが,「名は,原論文記載の表記に従い,省略することを避ける。」と明記した。名をイニシャルで記載する風潮が根強くあり,とくに日本人著者の識別性を悪くしているからである。

(4)記述例の示し方

 記述例は文献種別ごとに,おおむね必須の書誌要素(例示パターンで太字)のみで示した。有用な情報が含まれていたときに書いてほしいのが補助の書誌要素である。例示パターンにおいては細字で示されていて,それを実際に書くかどうかは著者の判断に任される。



3. 少し広い視野で眺める

 冒頭でも述べたとおりSIST 02は四半世紀の歩みのなかで,支持の輪を広げてきた。しかし,視野を広げてみると,生命科学や化学等の専門分野で,デファクトとなっている参照の国際ルールが存在する。これらを詳細に眺めてみよう。SIST 02に比べて書誌要素の表現の仕方や順序の違いがあって異なる様相を見せているが,中身は「だれが書いた」,「どのような内容で」,「なんという媒体のどこに」,「いつ発表した」かを示している。SIST 02 と大筋で異なるところはない。参照という行為の目的に照らしてみれば,それは当然のことである。この解説のあとにそのことをご覧いただくため,付録として紹介した。

 付録にすることについても,SIST 02という基準を示す立場の自己否定になるという議論があったが,そうではない。ある分野に参照ルールのデファクトが存在するという環境にあって,そこに十分な検討を経て優れた内容を備えたSISTのルールを投入し,「これはいい道具ですよ」とお勧めしているのである。生物・化学・工学等の境界領域で研究が盛んに行われており,境界領域の学術誌や総合誌においては,特定分野に偏らないSIST 02の参照スタイルが望ましいものとなろう。



4. これからの課題

 この基準の対象者は,「1.2 基準の対象者」で示されているとおり,個々の著者と,執筆規定を定める側にある編集者(学協会等)である。前述のとおり,対象者が理解しやすいようにルールを整理してきたが,そのルールを冊子体で提供するだけでなく,利用しやすい手段・方法に工夫を凝らすことが求められているのではないか。藤田の調査1),2)によれば,投稿規定や執筆規定をウェブ上で公知している学協会が圧倒的に多くなってきている。こうした現状からみれば,投稿・執筆規定の中の「参照文献の書き方」からそれ用の基準としてSISTの内容が閲覧できるようになること,また個々の著者がウェブ上の例示を取り込んで容易に参照リストを作れる仕組みを用意することなども,これからの課題のひとつと考える。



参照文献

1)藤田節子. 国内科学技術系学会誌の投稿規定の分析: 参照文献の記述, 電子投稿, 著作権を中心として (I). 情報管理. 2006, vol. 48, no. 10, p. 667-676. http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/48/10/667/_pdf/-char/ja/, (参照 2006-11-21).
2)藤田節子. 国内人文・社会科学系学会誌の投稿規定の分析 (I). 情報管理. 2007, vol. 49, no. 10, p. 564-575. http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/49/10/49_564/_article/-char/ja/, (参照 2007-01-04).




付録:国際的な参照文献の記述スタイル

 現在国際的に広く用いられている参照文献の記述スタイルとその制定団体,主に使用されている分野には次のようなものがある。

(1) NLM (MEDLINE) スタイル1),2) 米国国立医学図書館 生医学分野
(2) ACS スタイル3) アメリカ化学会 化学分野
(3) IEEE スタイル4) 米国電気・電子技術者協会 工学分野
(4) APA スタイル5) アメリカ心理学会 学際分野
(5) MLA スタイル6) 米国現代言語協会 人文・社会科学分野

 これらのスタイルの書誌要素の記述の順序と記述形式をSISTで推奨するスタイルと合わせて,雑誌論文 (英文) に関して比較すると下表のようになる。

 以下に雑誌論文の国際スタイルによる記述例と特徴を示す。

(1)NLM スタイル

Andersson FI, Blakytny R, Clarke AK. Cyanobacterial ClpC/HSP100 protein displays intrinsic chaperone activity. J Biol Chem. 2006 Mar 3;281(9):5468-75.
(著者の姓以外はイニシャルのみで,イニシャル間の区切りはない。雑誌名略記のピリオドは記載しない。書体は指定しない。ページ数は省略スタイル。)

(2)ACS スタイル

Andersson, Fredrik I.; Blakytny, Robert; Clarke, Adrian K. Cyanobacterial ClpC/HSP100 protein displays intrinsic chaperone activity. J. Biol. Chem. 2006, 281(9), 5468-5475.
(発行月日については説明なし。雑誌名と巻数はイタリック,発行年は太字。)

(3)IEEE スタイル

F. I. Andersson, R. Blakytny and A. K. Clarke, "Cyanobacterial ClpC/HSP100 protein displays intrinsic chaperone activity," J. Biol. Chem., vol. 281, pp. 5468-5475. Mar. 3, 2006.
(著者名は倒置しない。vol. を使用,号については説明なし。タイトルは引用符で囲む。発行年月日は最後。)

(4)APA スタイル

Andersson, F. I., Blakytny, R., & Clarke, A. K. (2006). Cyanobacterial ClpC/HSP100 protein displays intrinsic chaperone activity. J. Biol. Chem. 281(9), 5468-5475.
(発行年は著者名の後。雑誌名と巻数はイタリック。)

(5)MLA スタイル

Andersson, Fredrik I., Blakytny, Robert, and Clarke, Adrian K. "Cyanobacterial ClpC/HSP100 protein displays intrinsic chaperone activity." Journal of Biological Chemistry 281(2006): 5468-75.
(タイトルは引用符で囲む。雑誌名には下線を引く。発行年は巻数の後。ページ数は省略スタイル。)

(6)SIST02 スタイル

Andersson, Fredrik I.; Blakytny, Robert; Clarke, Adrian K. Cyanobacterial ClpC/HSP100 protein displays intrinsic chaperone activity. J. Biol. Chem. 2006, 281(9), p. 5468-5475.
(ページ以外の項目は多数派と同じスタイル。)



参照文献

1)International Committee of Medical Journal Editors. Uniform Requirements for Manuscripts Submitted to Biomedical Journals: Sample References. National Library of Medicine, Bibliographic Service Division. http://www.nlm.nih.gov/bsd/uniform_requirements.html, (accessed 2006-11-22).
2)National Library of Medicine Recommended Formats for Bibliographic Citation. National Library of Medicine. http://www.nlm.nih.gov/pubs/formats/recommendedformats.html, (accessed 2006-11-22).
3)Coghill, Anne M.; Garson, Lorrin R., eds. The ACS Style Guide. 3rd ed., American Chemical Society, 2006, p. 290-299.
4)IEEE Periodicals Transactions/Journals Department. IEEE Transactions, Journals, and Letters: Information for Authors. The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc., 2006, p. 4.
5)Baker, David S.; Henrichsen, Lynn. APA Reference Style. 2002-10-17. http://linguistics.byu.edu/faculty/henrichsenl/apa/apa01.html, (accessed 2006-11-22).
6)Gibald, Joseph. MLA Handbook for Writers of Research Papers. 6th ed., The Modern Language Association of America, 2003, p. 180-193.





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